プロナウンって何?英語圏で広まる“自己紹介で使う代名詞”
近年、英語圏を中心に「自己紹介でプロナウン(pronouns)を共有する」ことが一般化しつつあります。
あなたもSNSのプロフィールやミーティングで「My pronouns are she/her(私の代名詞は 彼女 です)」などと書いている人を見かけたことがあるかもしれません。
この習慣は一見小さいことのようですが、性自認(gender identity)や社会的立場への尊重、包括性に深く関わる非常に意味のある動きです。
この記事では、プロナウンとは何か、それがなぜ大切なのか、統計や英語圏での実際の反応を交えて解説します。
「she/her(彼女)」「he/him(彼)」といった基本的な使い方から、ネオプロナウン(neopronouns)まで。
さらに、日本の読者にとって「どう受け止めるか」「どう使うか」のヒントも含めています。理解を深め、多様性を尊重するコミュニケーションを身につけましょう。
プロナウンって何?基礎知識と種類
「プロナウン(pronouns)」とは、英語における代名詞(他人・自分・物事などを指す単語)のことですが、ここでは特に「人が望む代名詞(preferred pronouns)」を指します。
つまり、他者から呼ばれたい代名詞を明示するものです。
例として he/him(彼), she/her(彼女), they/them のほか、ze/zir(ジー/ジル), xe/xem(クシー/ゼム、またはクシー/エム), fae/faer(フェイ/フェア) といった「ネオプロナウン(neopronouns:新たに作られた代名詞)」も使われます。 (現状の日本語には「ze/zir」「xe/xem」「fae/faer」に完全に対応する単語は存在しません。)
なぜ「私のプロナウンは●●です(My pronouns are ●●)」という自己紹介が重要かというと、人の性別を見た目や名前で判断しないようにするため、また誤った代名詞(misgendering)を避けるためです。
自己認知(self-identification)を尊重することが、人間関係や職場、学校などでの安全で包括的な空間を作る鍵になります。
統計で見るプロナウン共有の実態と影響
英語圏で、若者やLGBTQ+(セクシュアル・マイノリティ、性自認の多様性を含む集団)の間でプロナウン共有がどの程度進んでいるか、データがあります。
- U.S.のLGBTQ+ ユース(13〜24歳)を対象とした調査では、「he/him または she/her のみ」を使う人が全体の約75%、残り25%は they/them のみ、または複数の代名詞やネオプロナウンを使っているという結果でした。
- 同じ調査で、周囲の人たちがその人の望むプロナウンを「ほとんど/全て守っている」と答えた人たちは、プロナウンが尊重されない場合に比べて、自殺未遂のリスクがほぼ半分になったという報告があります。
- 「彼ら/彼女ら/they/them」のようなジェンダー非二元性(nonbinary)を表す代名詞を使うケースはまだ少数ですが、知名度・受容度は拡大しています。
たとえば、アメリカやイギリスの職場で「従業員の代名詞をプロファイルに含めること」を望む人や、それを実践する企業が増加しています。
これらのデータが意味するのは、「プロナウンの共有」は単なる意識的な言語遊びではなく、心の健康、所属感、差別や誤解を減らすという実質的な利益があることです。
英語圏でのSNS・オンラインでの反応と議論
プロナウン共有の広がりは、SNS やオンラインコミュニティでも強く感じられます。
その反応には肯定的なもの、疑問を持つもの、批判的なものまでさまざまです。
肯定的な反応:
- 多くの人が「自己紹介でプロナウンを言うことを見て安心した」「自分も堂々と言えるようになった」という声を投稿しています。特にトランスジェンダーやノンバイナリー(nonbinary)の人々にとっては、自分のアイデンティティを周囲に伝えるきっかけとしてプラスになっているという意見が多いです。
- 企業のLinkedIn プロフィールで「Preferred pronouns」を記載する人が増えており、2024年には数千万のユーザーが自分のプロナウンをプロフィールに表示しているという報道もあります。これはプロナウン共有が「プロフェッショナルな場」でも受け入れられつつある証拠です。
疑問や批判も:
- 「慣れていない」「文法的に違和感がある」「なぜ必要?」「政治的・文化的議論が入りすぎている」といった意見も少なくありません。特に they/them の単数形使用や、ネオプロナウンに対しては誤解や反発も根強いです。
- オンラインでは、「パフォーマンスとしてだけプロナウンを共有する人」への懐疑もあります。つまり、見た目や言葉だけで中身の理解が伴っていないのでは?という批判です。
議論のポイント:
- プロナウンを共有することで義務感や強制のように感じる人もいるため、「共有は推奨されるけど強制ではない」という立場を取る団体や学校が多いです。
- 教育現場での取り組みとして、教職員の研修や、学生が望む代名詞をアンケートや登録フォームで答えられるようにする制度設計が話題になっています。誤用をした場合の対応(謝罪・修正)の文化がどれだけ整っているかが信頼につながるという意見もあります。
このように、オンラインやSNSではプロナウン共有はかなり注目されており、人々の意識や慣習も少しずつ変わりつつあります。
日本での「プロナウン」理解と使いどころのヒント
日本語圏では英語圏ほど「プロナウン共有」が広く知られていないため、誤解や戸惑いのある場面も多いです。ここでは日本でこの考え方を取り入れる際のポイントとヒントを紹介します。
言語的・文化的な背景:
- 日本語には英語のように「he/she」「they」のような性別代名詞(gendered personal pronoun)が少ないため、代名詞による性の表現が目立ちにくいです。名前や敬称、性別を暗示する表現(例:〜さん/〜君/〜ちゃんなど)で判断されることが多いです。
- また、「性別を明示すること」に対するプライバシーや恥ずかしさを感じる文化的要素もあります。
使いどころのヒント:
- 英語を使う場・合同研修・留学・国際イベント・SNSプロフィール・オンライン英会話クラスなどでは、「My pronouns are ~」を自己紹介に入れてみるとよいでしょう。相手に配慮を示すきっかけになります。
- 相手がプロナウンを共有していなかったら、強制せず「共有するオプションがあります」といった形で示すのが自然です。例えば、「もしよければ、あなたのプロナウンを教えてもらえますか?」など。
- 誤って間違ったプロナウンを使ってしまった場合は、「ごめんなさい、あなたのプロナウンは◯◯ですね」と訂正すること。謝ること自体よりも、尊重し直す姿勢が大切です。
実際の事例:
- 国際的なイベントや交換留学の際、一部の学生が「My name is ~, my pronouns are she/her」とロゴや名札に記載していた例があります。参加者の中に「それを見て安心感を持った」「初めて聞いたけど理解できた」とポジティブな反応が複数報告されています。
- 日本国内のSNSでも、英語学習コミュニティやLGBTQ+ 支援団体などでプロナウンという言葉が紹介され、「プロナウンを共有すること」が「相手への思いやり」の一部と捉えられる投稿が増えています。
「プロナウン」をめぐる歴史と興味深い事実
- 「they」が単数代名詞として使われる歴史は古く、14世紀には文学作品で使われていた記録があります。現代だけの新しい造語ではありません。
- ネオプロナウン(neopronouns)は比較的新しい概念ですが、2020年の The Trevor Project の調査では、LGBTQ+ 若者のうち「ze/zir」などのネオプロナウンを単独で使っている人は約4%という結果が出ています。
- また、米国のある調査で「企業が従業員のプロナウンを尊重すべきか」という問いに対して、若年層(18-29歳)の約半数が「性別以外の選択肢をオンラインフォームに含めるべきである」と回答しています。
まとめ
「プロナウンを共有する」という少し新しい習慣は、英語圏で性の多様性を尊重し、包括的なコミュニケーションを築くうえで非常に大切な要素です。この記事のポイントを振り返ると:
- プロナウンとは「他者から呼んでほしい代名詞」であり、性自認を尊重する意味がある。
- 統計的にも、プロナウンが尊重されることが若者の心の健康や自尊感情にポジティブな影響を与えている。
- SNSやオンラインプロフィール、教育・職場の場での反応は肯定的なものが増えており、ただし完全に意見が一致しているわけではない。
- 日本では文化的・言語的にハードルがあるが、少しずつ理解が広がっており、自己紹介などで取り入れる可能性は十分ある。使い方としては、共有を柔らかく促すこと、誤りを訂正することなどがカギ。
もしご興味があれば、「日本語でプロナウンを表すにはどうしたらよいか」「日本語圏における法律・制度との関係」など、次に掘り下げるテーマをお知らせください。
小さなステップから、多様な人びとが尊重されるコミュニケーションを共につくっていきましょう。